とりかえ風花伝/柳原望 感想

とりかえ風花伝(花とゆめCOMICS) (2005/05/02) 柳原 望

とりかえ風花伝/柳原望/全３巻/LaLaDX連載/TSF(女体化・男体化)/戦国時代(画像は３巻です)

粗筋：時は戦国。乾山の姫・風花(ふうか)は領主の父の加勢を乞うため、鬼と噂される白髪赤眼の盗賊・白鬼丸(びゃっきまる)を訪ねる。断る白鬼丸に取り縋り、足を滑らせた風花は助けた白鬼丸と体が入れ替わってしまい?!

感想：１巻のネタバレがあります。
男女がキスで入れ替わるというファンタジーですが、メインは謀略・戦争・裏切りといった少女領主を取り巻く過酷な背景と、鬼と呼ばれる白鬼丸の人間への成長を描く、戦国乱世の物語です。
舞台は永正五年、応仁の乱から四十余年が経過し後に戦国と呼ばれる時代尾張の端に位置する乾山を中心とした尾張の地。
領主の娘として愛され守られ育った風花と、その特異な外見から母に捨てられ、人々に恐れられ盗賊へと落ちた青年白鬼丸の２人が主人公です。

全く対照的な二人ですが、心が入れ替わり、それぞれが暮らす場所へ行くことで、お互いの立場を知りました。風花は人を喰らうと言われた鬼が晒されてきた人々の視線と悪意を、人々の恐怖と憎悪の視線しかしらなかった白鬼丸は、あたりまえに笑顔を向けられることを。

鬼の姿の風花は道に迷う城の人間を助けようとしますが、恐れられ言葉が届きません。戦から帰った父に近づくこともできない風花に代わり、白鬼丸が風花を守ることを誓います。そして鬼姫と呼ばれながら敵を切り、戦を勝利へと導いていきます。

キスで入れ替わるという一見ファンタジー要素の強い作品ですが、権力者や他国の策略、村人や通り過ぎる旅人の恐怖の視線と、けして優しい世界ではありません。またそれぞれの人々も、自ら、または家族の命や地位を守るために戦っており、分かりやすい「悪」として憎むこともできません。３巻では敵対した国に立ち寄り、風花が異形の存在として描かれる場面もありました。
柔らかな絵とコミカルな会話に騙されそうになりますが、内容はかなり重い作品です。

そんな中で、笑顔を向けられるだけで動揺し、力以外に居場所を作ることを知らない白鬼丸が、風花という少女に出会い、次第に自分の居場所を手にするようになっていくのは幸せな気持ちになれました。
風花もまた、自分の居場所である乾山、そして白鬼丸を守るために必死で戦います。剣の腕も戦の知恵もありませんが、矢で貫かれ動けない白鬼丸と入れ替わり自分の体で戦わせたり、白鬼丸の代わりに盗賊と怖れる人々に暴行を受け、それでも平気だったと笑います。
お互いがお互いを守るために、自分の意志で入れ替わるというのも二人の繋がりを描くのに効果的だったと思います。

作中に実在の人物も多く登場し、勝幡城主・織田信貞や十代室町将軍足利義尹など、実在の人物(ただしマイナーな方が多いです)も多く登場し、少女を主人公とした戦国ものと考えても面白かったです。
残念なことに恋愛や白鬼丸の成長といった話は一応完結していますが、政治的な問題は山積みのまま終わっています。とても好きな作品だったのでもっと続きを読みたかったです。