イヴの時間(1)/太田優姫(原作:吉浦康裕) 感想
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2010/09/29 20:55:51
2010/09/29 20:55:51
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粗筋:“イヴの時間”のルール『当店内では…人間とアンドロイドの区別をしません』
未来、たぶん日本──。社会ではアンドロイドを“家電”として扱う事が一般化され、リクオの家にもまた、自家用ハウスロイドであるサミィがいた。
ある日リクオと友人のマサキは、「アンドロイドと人間を区別しない」というルールを掲げた不思議な喫茶店「イヴの時間」に行き着く。そこには、アンドロイドと人間が織りなす、ほろ苦くも優しいストーリーが待っていた──。
第1・2話試し読み:hthttp://www.square-enix.co.jp/magazine/yg/browsing/
アンドロイドが一般化した社会。
家電であるアンドロイドが浸透する一方で、アンドロイドを人間のように友人や恋人と見なす「ドリ系」と呼ばれる人々が社会問題となっていた。
そんなニュースが流れる中、男子高校生のリクオは自家用ハウスロイド・サミィの奇妙な行動を気にかけていた・・・。
無表情で無感情。アシモフの三原則にどこまでも忠実なアンドロイド達が日常に溢れる近未来。
アンドロイド達は人と区別するため頭にリングが光り、人とアンドロイドと同等に扱うことは、倫理的にも法律的にも禁止されています。
しかし『イヴの時間』は特別。法的には限りなくボーダーorアウトのその喫茶店では、アンドロイドも人間も区別なく、会話を楽しみ笑い合っています。
アンドロイドが感情を持つこと。多くの作品では素晴らしい「奇跡」として描かれますが、この作品は「感情を持つアンドロイド」が非常に奇妙な描かれ方をしています。
それは決して好意的ではありません。
まず、アンドロイドが感情を持つ場面が限定されています。
唯一喫茶店「イヴの時間」の中でのみ、無表情なアンドロイド達が笑い合います。
その様子はとても自然で、人間であるリクオにもその友人で「ドリ系」には批判的な(この世界ではひどく真っ当な感覚です)マサキにも「人」と「アンドロイド」の区別は付きません。
ですが「イヴの時間」から一歩踏み出すと、アンドロイド達はまた表情のないアンドロイド的アンドロイドへと姿を変えます。
実際は無感情に見えても彼らは主人のことを考え、主人をもっと理解し考えたいと願っているようなのですが、それを外へとは決して出さないのです。
これが科学の進歩、適切な状況理解などの機械知能の発達によるものならば、この技術を作り出した会社はもっと利益を得ようとするはず。
しかしそういった事実は少なくとも作中では描かれておらず、それなのに奇跡に出会ったというほどにはリクオ・マサキの反応は強くありません。
その不可思議な反応が、私にはひどく奇妙に見えました。
物語の主軸である「アンドロイドの感情」には謎が残りましたが、話はとても良かったです。
外見的には全く人と区別がつかないのに、決して「人」としては扱われない家電製品。
彼らに溺れる人は「ドリ系」と嘲笑され(どことなくオタク蔑視等に近い表現です)、アンドロイドがバラバラになるCMが流される。
そんな社会から隠れるように作られたアンドロイドと人の区別がない喫茶店。
徹底してアンドロイドを機械として見る社会の描かれ方は興味深く、物語に引き込まれました。
そんな社会を反映するかのような、対照的なリクオとマサキのアンドロイドへの考え方も面白かったです。
話は3話ほどで一体のアンドロイドを描いているのですが、リクオとサミィの関係、アンドロイドを家電として扱う少年と彼を心から心配するアンドロイド、お互いに相手を人と思い通じ合う「イヴの時間」の2人と、どれもアンドロイド達の人間への一途な思いが描かれ、切なく綺麗でした。
「なぜイヴの時間ではアンドロイドが感情を持つのか?」「全てのアンドロイドが感情を持っているのか?」「アンドロイドはなぜ感情を持ったのか?」エトセトラエトセトラ。
分からないことはまだ多くありましたし、設定も特殊でしたが、どの話もアンドロイドがメインとされていて、またその描かれ方も優しくはかないので、アンドロイドを扱った作品が好きな方にはおすすめです。
関連記事:アンドロイドと人間の関係性を描いたSF「イヴの時間」オリジナル版公開
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