放課後保健室/水城せとな 感想
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2009/05/28 23:08:44
2009/05/28 23:08:44
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放課後保健室:水城せとな
全10巻。プリンセス連載。
両性具有/TSF?/BL?/百合?
粗筋
高校生・一条真白はある日突然、謎の地下保健室に呼び出され、
「特別授業」に参加させられるのだが…!? 思春期ダーク・ファンタジー。
感想
主人公である真白が上半身は男性下半身は女性という両性具有者ですが、特別授業の中で女性になったり、男性になったりします。
この話は現実の生活と放課後の保健室での特別授業という、二つの側面から登場人物を描いています。
現実での生活では、真白は優しく女の子に人気の男の子。ヒロインの紅葉はふわふわ可愛いけど、ちょっときつめの女の子。女の子としての真白を好きになった蒼は、カッコいいけどクールで意地悪な男の子というキャラクターです。
他にも複数のキャラクターが登場しますが、彼らもまた恋をしたり、悩みを抱えたりしながらも高校生活を送っています。
そんなごく普通の高校生として過ごそうとしている彼らの闇を、いやらしいほどに暴き立てるのが保健室での『特別授業』です。
授業は毎週木曜日の放課後に行われます。保険医に呼ばれた生徒は、保健室で眠りにつき、「夢」の中で鍵を探すことになりますが、この夢の中では普通の高校生でいることができません。
例えば現実世界では両性であることを隠し男として過ごしている真白は、夢の中では女子の制服を着ています。
雨の日に強姦された記憶を抱える少女は夢の中では雨合羽を着た女の子になり、現実の世界で自分がいないと感じている少女は顔に穴が開いている。
夢の世界は、誰もが知りたくない・考えたくない自分の本当の姿を、肥大化させて突きつけてきます。
また、夢の中で生徒は3つの玉が付いた首飾りを身に付けているのですが、その玉は恐怖やショックで心がダメージを受けると割れます。玉が割れることで彼らの傷を他者にまでも晒し上げます。
『誰かの体の中』に鍵が隠されるということにも、強烈な悪意が感じられます。それはです。この授業は、鍵を見つけるか、失格になるしか抜け出す術はありません。だからこの悪夢から抜け出したいなら、他の生徒の体を引き裂いて捜すことになるのです。
しかも鍵は一回の授業で一つしかないため、見つかった後も残った者遠しで奪い合うことになります。
夢の中でも痛みや恐怖は感じます。お互いにそれを与え合い、与えられ合いながら、現実の世界では誰ともわからない夢の相手に怯えながら、友情を演じます。そして夢の中の授業は、人間関係という現実までも侵食していきます。
ダークファンタジーという煽り通り、残酷で不条理な世界観ではありますが、一方で突きつけられた闇を乗り越える成長を描いた作品でもあります。特に私は、男としての真白の相手役でもあり話全体のヒロインである紅葉の成長がすばらしいと感じました。おそらく作品中でもっとも変わったのではないかと思います。
またこの残酷な舞台の中だから、まっすぐに相手を思う心を持ち続ける強さも感じられます。紅葉に片思いしながらもずっと携帯で紅葉から恋の相談を受けていた少年の夢の中の姿には涙が出ました。
夢の中の相手が現実では誰なのかを考えるミステリー的側面もあります。まったく読めない展開ではありますが、後でそれとわかる伏線の張り方も素晴らしいです。主人公が両性であり、男女両方に異性として見られる心理もよく描かれていたと思います。
主人公の性格とラストがあまり好みでなかったのは残念でしたが、文句なしに面白い怪作だと思います。
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