人間失格 壊(全1巻)/ニノ瀬泰徳(原作:太宰治) 感想
admin≫
2010/07/22 22:10:56
2010/07/22 22:10:56
![]() | 人間失格 壊 (チャンピオンREDコミックス) (2010/07/20) ニノ瀬 泰徳太宰 治 商品詳細を見る |
恥の多い生涯を送って来ました――
幼い頃より自意識にまみれ、世の中と調和できずにいた大庭葉蔵。
無邪気さを装って、周囲を欺いてきた彼の孤独な生涯とは…!?
不朽の名作を、漫画界の異端児が己の情念と人生を込めて大胆に漫画化!!
主人公の大場葉蔵が、女装させられ犯されるシーンがあります。
またこの漫画にはかなり絡みのシーンが多いのですが、葉蔵の相手や彼が決定的に人間から逃げ出すきっかけとなった出来事など、強制的に相手に性行為を迫る人間たちは、全て内臓と触手で構成されたゲル状のもので描かれています。
エロ、触手、女装していない状態での性描写、輪姦、少女のグロ化、昭和初期のエログロナンセンス、そしてにじみ出す狂気。
そういったものが苦手な方は回避された方が良いです。
凶悪な絵とグロ描写、何より葉蔵から見た世界の歪みは、連載誌が少年漫画ということを一笑に付したくなる不健全が描かれています。
「地獄よ 地獄 人間地獄
この世に仏はありようもんか
地獄が嫌なら やれ逃げなんし」
内容はタイトル通り『人間失格』コミカライズ。そしてタイトル通り壊れています。
この作者は、もともと「他者」に対する悲観・恐怖を感じさせる発言が多い方です。その癖、うす暗く忌憚すべきことをインタビューや後書きで何のてらいもなく明け透けに云ってしまうという妙な性癖の持ち主のため、極一部のネットで微かに有名になったりもしていました。
実際のところ、それが真実なのか、単なる読者へのパフォーマンスなのかは分かりません。
ただこの作品で、その作者の思考と『人間失格』という作品が、絡み合いエログロナンセンスとしかいいようのない怪物に変貌したことは確かです。
収録されているのは全四話。
『第一の手記 お道化』『第二の手記 裏切り』『第三の手記 世間』『第四の手記 廃人』
そしてこの作品を描くきっかけとなった読切『帝都闇花忌憚 病みうさぎ』です。
大筋は『人間失格』ですが、愚鈍な少年・竹一が、「竹一姫花」という美少女に姿を変えたり、原作では大学に通った後に会う「ヨシ子」が幼なじみになっていたりと、諸所で変更が見られます。
また登場する人々を待つものも、小説とは随分と異なっています。
しかし、状況・環境・取り巻く人々がいくら姿を変えても、主人公・葉蔵の「人」「世間」への恐怖はなんら変わることはありません。
薄いとはいえ文庫本一冊。それを四話という決して多くはない話数で、何よりその強烈な印象をそのままに、より醜悪に腐敗させているのには、原作物でありながら漫画家の幾重にも張り巡らされた意識を覆う肉壁を、鋼鉄の筆で切り裂いて濁った血と唾棄したくなるような臆病な憎悪を、えずきながら無理やり引きずり出して読者に見せつけているようにすら感じられました。
自分を「かわいがる」人々が、決して人には見えない葉蔵。親友は化け物と化し、無垢な少女は救いを叫びながら朽ちていく。
彼の目からは人が、世間が全て悪夢に他ならず、逃げ出す術も持ちません。
そんな中、彼を囲う女性の娘・シゲ子の幼さと優しさだけが救いでした。葉蔵と性別・性格なにもかも、全てが正反対の彼女は、決して美麗とは言えない絵なのに、ただただ美しくあたたかく感じられました。
また「竹一姫花」も原作の登場人物を改変して描かれたとは思えないほどの鮮烈な存在です。
道化を演じる葉蔵に「わざ わざ 」とつぶやくのは同じですが、笛をふきつつ歌う姿は、決して人ではない奇妙なものとして私の中に残り続けました。
そして最後のカタルシス。
読切の『帝都闇花忌憚 病みうさぎ』は、クラスで一番暗い子や、成績の悪い子……病んでいる子を狙う『触手仮面』に狙われた学年主席の「健全」な少女の話です。
触手エロが半分を占める作品ですが、皮を剥がれた健全少女の暗さ・汚さは、葉蔵に通じるものを感じました。
この漫画を『人間失格』という作品が好きな方に、勧めていいものかは分かりません。
ただ、一太宰治ファンの自分は、この漫画が『人間失格』が好きな方に読まれて欲しいと思いました。
関連記事:魔女の騎士ヘクセン=リッター/二ノ瀬泰徳 感想
TSF(ただし人によって捉え方は異なるかと思います)については続きに。
重要なネタバレがありますのでご注意ください。
▼続きを読む▼